トランペット高音域への科学的アプローチ実験

当初目標音域と広がった音域

当初の目標と音域の広がり

 実は、今回の実験スタート時点の目標は、「図 目標と音域の広がり」の当初の目標に示すように、ベーからハイF程度の1オクターブ半、頑張ってハイGまでと思っていたのだが、どんどん高音が伸びてきたので、若い頃の仇をとるかのように、いつの間にかハイトーン・チャレンジになってしまい、高音方向はトリプルハイベー超(スマホアプリチューナーによればDらしい)まで出てしまった。低音方向もローEまでなんとか出るようだが、今のところローベー付近から下の音は低すぎて遠すぎる。

 実験開始当初は、まさかこんなにも高い音まで到達するとも思わずに始めたが、なかなか楽しい体験であった。また、考え方として、吹きたい音域だけ吹ければ良いと考えるのも、素人らっぱの楽しみ方の一つと思う。考えてみれば、自分の若い頃は「吹ける音域しか吹けなかった」のだから。むしろ積極的に「吹きたい音域だけ吹ければ良い」と考えたほうが健全なのかもしれないとも思う。

 今回の実験を通じて、過去の自分のハイD(実音)が限界の方法の延長では超高音域にはつながらなくて当然だったかもしれないと実感した。音程を変化させるには何かを変化させているはずなのだが、限界が来るのは、その何かがこれ以上の変化に対応できないという事だから。今回の実験で、広い音域までの変化に対応できる何かを見つけたともいえる。若い頃に10年掛けて全く届かなかった音域に、ほぼゼロスタートから約1年で、全く経験のない音域を1オクターブ半程度も上下できるようになったのは、自分にとっては驚異的な出来事だった。

感想

 例えば、マウスピース内で唇を移動させているが、脳内で動かそうとしている距離と実際に動画で確認できる動きの幅は、全く異なっていることに驚く。脳内ではとても大きく動かしているのに、実際にはほんの少ししか動いていない。実際にはミクロン単位なのかオングストローム単位なのか分からないが、微小な動きなのだろう。スキーでは、上達するには大きな動作を心掛けたように記憶している。上手な人からそのように声を掛けられたような記憶がある。多分大きな動作をすることで、必要な動作と無駄な動作を選別しているのかもしれない。
 この実験のスタートから動画記録していれば、実際の動きが小さくなってきたのか、変わっていないのか、単に脳内と実際のスケールが異なるだけなのか区別できたかもしれない。トランペットもスポーツの側面があると思うので、共通点はあると思う。

 高音が出るようになって実感したのは、高い音そのものが難しいわけではなく、広い音域を獲得することが難しいということ。
 例えば、5度の範囲だけ音が出ればよいのなら、低音域、中音域、高音域でも難易度は同程度と感じる。違いは高音域のほうがエネルギーを必要とすることくらいだろう。それを5度から1オクターブに広げるには少し時間が必要で、2オクターブに広げるにはもう少し時間が必要、ましてや3オクターブに広げるにはかなり時間が必要だろうと思う。それ以上は全く想像がつかない。
 今回の実験で新鮮な発見が2つあった。一つは、上唇と下唇とは、広い音域を確保する場合には役割が違うようだとの発見。もう一つは、2次元発想の動作が3次元動作に進化するという、人間の最適化能力の発見。

☆★☆ 妄想コーナー ★☆★
 長期休養期間に入ってからネットをググっていて発見したのだが(何十年経って今頃知った)、モーリスアンドレのマウスピースは、上唇が当たる部分のリムは厚く、下唇の当たる部分は薄く丸くなっているのを見た。神様がなぜそうするのか、本当の理由は自分には分かりようもないし、分かったところで出来るはずもないのだが、この実験と重ねて考えるに、上唇がずれずに変形移動しやすく、下唇は上唇について行けるように自由に動くようにしていると考えられる。まあ、勘違いだろう。(勝手な妄想をする迷える子羊をお許しください)
 又、ネット動画を見ていると極端な高音域までのとても広い音域を使っている著名人たち、例えばアンドレを含め、ファーガソン、サンドバル等を見ていると、下唇が筋肉だけでなく異様に前に出たり良く動く気がする。まあ、これも、先入観。この理屈が頭にあり、こうすると吹けるという意識が働いてしまうので、そのように見えているだけに過ぎない。
 それにしても現在の人は良い環境にいるなあ、自宅で手軽に著名人の演奏を見られるのだから。しかも動画だから一時停止したり、繰り返したり。ブツブツ
☆★☆ 妄想コーナー終 ★☆★

 ピッコロトランペットや高音域が上級者御用達のイメージなのは、ベー管を基準にして音域を広げないといけないことが一番の理由だろうと思う。しかし、広い音域をコントロールするのは大変難しいが、初めからピッコロトランペットをターゲットにしたら、ベー管で1オクターブ半程度をなんとか吹けるなら、ピッコロトランペットでも、(ベー管の1オクターブ上の)1オクターブ半程度ならなんとかなる気がしている。

 実験による検証では、実験を始めてから約8~10か月程度で、ハイF付近からスタートしトリプルハイベー付近まで上がれ、ハイベー~ダブルハイF程度の音域をかなり自由に上下出来るようになった。<付録b-4.実験途中の動画>にいくつか当時の動画記録があるので掲載する。動画記録は音が出始めた頃の、やっと音が出ている物しかないが、実験結果として掲載する。科学的な理屈に従った方法で物理的な音が出ていると思えば聞いていられるが、音楽として聴くには価値はゼロどころかマイナスなので聞くに堪えないものばかりである。
 例えると初心で始めた人が第2倍音のベーから第6倍音のFまで何とか吹けるようになり、頑張ってハイベーも出たりする状態に似ていた。2オクターブ違うとはいえ、音域範囲が1オクターブ半程度なら何とかなる証と思う。その後、ベーからダブルハイベー程度の2オクターブがスムーズに繋がるように実験を続けていた。若い頃吹いていたローベーからハイベーは当時よりもスムーズになった感があったが、そのまま高音域まで駆け上がれるようになるには、まずベーからダブルハイベーがスムーズになる事かと思う。

 そして、検証動画を記録した8~10か月目以降の2~3か月は、以前に比べかなり順調で、この感触ならあと1年ほど吹き続けて慣れれば、それなりの音量で、もう少し音がスムーズに繋がるようになり、ブランデンブルク協奏曲もMハイドンもリヒターも、通しですべての「音を出せそう」だと感触があった。拙い経験からでも明らかだった。しかしその時点で、肺が少しの圧力にも耐えられない状態に陥ってしまった。従って、大きな音やプラクティスミュート無で楽器を吹くことや、ましてやピッコロトランペットを吹く経験をすることなく途中で終了し長期休養になってしまった。

 以下、高音に対するイメージの変化、音が出るまでの出来事、肺に掛かる圧力についての感想を述べる。

高い音に対するイメージの変化

 高い音に対する自分にこびりついていたイメージでは、高い音は「暫く間しか出せないもの・瞬間芸」だったが、今回の実験を通じてダブルハイベーでも「とてつもなく高い音」では無く、「一般的な体力で出し続けられるごく普通の音」ではないのかとの感触をつかんだと思う。これには、「ハイベーは普通の音域だ」と自己暗示を掛けたことが一番効果があったのかもしれないが、小さな音でも上下できるようになると変わってくるものなのだろう。
 不思議なもので、「高い音」だと思っている間はなかなかうまくいかなくても、「この高さの音」と思えるようになれば案外行けるものなのかもしれない。
 もちろん今は小さな音で続けているが、今の自分の体力・筋力・柔軟性が一般的な人より低い状態でも、それなりに上がったり下がったり出来るのだから、一般的な体力に戻せるならばそれなりの音量で音を出せるだろうと感じる。しかし、さて、どうなることやら。

 何を隠そう、実はこんなにも高い音が出し続けられるようになるとは夢にも思っていなかったので、嬉しい誤算であるがあまり嬉しくはない。実験を始める前から、この仮説で、普通の音域のように高音が出し続けられるようになることが分かっていたら、圧力に慣れさせるために何かできたかもしれないし、せめて1Km程度は走れるようになったほうが良かったのかもしれない。

音が出るまでの出来事

 この実験スタート直後、初めの音として決めたハイベーが出るまでには2~3か月掛かったかもしれない。その後、さらに数か月でハイベー~ハイFを上下できるようになり、さらにハイFからハイGの壁が厚かったが、唇をマウスピース下端方向にさらに下げる事が出来るようになったのだろう、ハイGが出たらダブルハイFまでそれほどの時間が掛からずに出るようになった。但し最低音はハイベーなので約1オクターブ半。
 その時点でも、必要な筋力はほとんどなく、音揺れは船酔いしそうなほどのひどさ。なんとか息が吸えるようになってきた頃。そして、実験中は、力の入れ方が混乱して何度も振り出しに戻ったが、ハイベーが出るようになれば続けられた。ハイベーが出るまでに数日かかることもあったが、途中で嫌になる事も無く続けてきたのは、「高音域が出ればラッキー、出なくても当然」だとしか思っていなかったからだろう。
 高音域以上をあまり大きくない音で出すだけなら、肺を圧縮する筋肉や唇周りの筋肉はそれほど必要ない事も確認したことになるが、唇周りの筋肉を自由に動かせるようになる事は重要だろう。
 しかし、今思うに、筋肉がうまく動かない間は、積極的にマウスピースを動かしながら探るのも効果的だったのではないかと思う。なぜなら、唇とマウスピースとの位置関係なので、唇を動かすことは相対的にマウスピースを動かすことと同じだから。また、筋肉は自分で動かしても誰かに動かされてもトレーニングしたことになると聞いたことがある。
 そして、音が出るようになれば、唇の筋肉や肺を圧縮する筋肉は自然に鍛えられていく。しかし、肺そのものの柔軟性・耐圧性が高まるまでには、年齢や体力に応じてじっくり待つ必要があったのだろう。もしくは元々この齢から始めるのは無理だったのだろうか。

肺に掛かる圧力

 最低限の体力と最低限の筋力で高音が吹ける口は存在したが、超高音域の肺に掛かる圧力はとても高い。肺を圧縮する事だけが唯一の音のエネルギー供給源であり、肺の圧力を上げるからこそ、結果として肺から喉を通り唇の内側まですべての部分で圧力が上がり、より高音になり、より音量を上げられる。裏を返せば、音程・音量に必要な圧力はほぼ決まっているのかもしれない。実験開始時には肺の圧力がどの程度になるか分からなかったが、小さい音ならば大丈夫だろうと思っていた。しかし、特にダブルハイベーを超えたあたりからは、小さな音でさえも、圧力=エネルギーが必要なことが良く分かった。超高音域の圧力は予想外の高さだったようで、少し甘く見ていたかもしれない。肺そのものを痛めたようだ。この運動不足の老体、特に肺にとってかなり過酷な音域だったのだろう。自分の肺の耐圧力や柔軟性は向上するのだろうか。方法はあるのだろうか。

 若い頃は、ハイベー付近もそれなりの音量を頑張って出していた。何しろ市民オケ時代は主席奏者!?だったこともあった。なぜなら、らっぱの団員が一人だけだったから。その頃は20代中盤で、走るのも3km程度なら遅くはなかったし、楽器が重いと思った事も無いので、体力はそれなりにあったと思う。体力があったからなのか、肺の調子が悪くなる経験は一度もなかったので、気づきにくかったのだろう。
 この実験初期は音を出す時間も10分程度と短く小さな音だったので気に成らなかったが、音を出せる時間が長くなってきたことと、年齢的に後がないという焦りから出来るだけ早く癖をつけたいと、気づいたらベー管の普通の音域のようにそれなりに長時間吹いていたことと、未経験の高音域がほんの少し大きな音になってきたことで肺に過度の負担が掛かっていたものと思う。一番負担が大きかったと思われるのが、無理して音程を上げようとして音程が上がらない時だったかもしれない。こんな時は決まって唇を移動する事を忘れ、舌も上がりきらず、肺の圧力だけをさらに上げて音程を上げようとした時のような気がする。しかし、そんな体力のない状態でも吹き続けられたのは、筋肉への負担が最小限だからだろう。

 肺に負担を掛けたもう一つの原因と考えられるのは、マウスピースだけだと息の通りは良いが、何十年前の化石のようなニュー・ストーン・ライン製プラクティスミュートを付けたベー管の息の通りは非常に悪く(現在のミュートがどうなのかは分からない)、初めのうちは背中、腰付近の筋肉が痛いほど疲れたのも関係するかもしれない。筋トレに丁度良いかと思ったが、やはり初めのうちは楽な状態を探したほうが良かったのかもしれない。

 若い頃からずっと吹き続けていたのなら、肺も圧力に慣れていたのだろうが、肉体の老化と運動不足は何とか出来るのだろうか。例えると、空気を抜いた風船みたいに肺がしょぼしょぼになっていて、ところどころ薄くなっているのだろうか。特にダブルハイFを超える最高音を記録すると翌日何となく鎖骨付近に違和感があり、数日休んでいた。より高い音をどうしても出してみたくなってしまうのだが、そろそろ自制しないといけないと思いつつ。

 当時はプラクティスミュート付きベー管でも調子よく音が出るようになった頃だったが、その時期は丁度コロナ騒ぎ真っ最中であり、肺炎で重篤化する老人も多くいた。まさかとは思うが、それ以外に何の症状も無いが、老人に片足を突っ込んでいるような年齢から始めたことなので、やはり一度長期休養しておいた方が良さそうだと思った。長期休養の決め手になったのは、胸骨の奥付近でボキッと音がしたことかな。普段の呼吸には何も問題は無いが、年齢的にも別の理由も考慮しておかないとならない。こんな時だけは、若いほうが良いなあと思う。

 今更考えても仕方のない事だが、もし、肺そのものが圧縮に耐えられる柔軟性があるうちに、平たく言えば若い肉体のうちにコツを掴めば、それなりに超高音域も楽しめたのではないかと考えている。
 また、高音域だけの狭い音域だと感じなかった肺の高圧力も、中低音域から高音域のように広い音域を上昇する際には無駄に高い圧力を掛けてしまったように感じる。若い頃の頑張って音を出す癖も出ていたのかもしれないが、非効率な圧力変動方法により、どうしても余分な圧力を掛けてしまったのだろう。

雑感1 初めての音はしょぼい

 高校生の時に吹奏楽部の先輩が「金管は、高音は無限なんだよ」とうそぶいておられたが、無限の高音を聞かせてもらったことは無かった。しかし、今回の実験でトリプルハイベーは超えられたので、無限と言った先輩は正しかったんだなあと、やっと思えるようになった。
 当時は「音域によってアンブシュアを変えてはいけない、シラブルを使うと音が変になる、顎を動かしてはいけない、マウスピースだけの練習はあまり効果がない」等、聞いたことをやろうとするだけで精いっぱい。その中でも上手になる人、ならない人、人それぞれ。

 今回は、それなり程度でも上手になれるほどの時間は残されていないだろうから、科学的に音が出るはずだと思うことを最優先でやってみた。アンブシュアやシラブルが一体何を指しているのか、いまだに良く分からないが、今回の体験で、トランペットでも最低音付近と最高音付近とでは、唇の緊張度や力の向き、唇とマウスピースとの関係等、すべてが全く違う感じがするので、音程ごとに異なるほうが自然ではないのかと、今は思っている。強いて言えば、マルチアンブシャー。

 現在の標準的な高音へのアプローチ方法は知らないが、自分が教わった高音へのアプローチ方法は、中低音域をしっかり吹けるようになることで、音楽的な要素や必要な筋肉を鍛えてから徐々に高音を出していくものであった。音楽が目的なのだから、音を出せるようになった音域で音楽が出来るようにするのは当然のことで、狭い音域のほうが音楽に仕上げやすいのは確かだろう。
 しかし、今回は自分の年齢を考えると、正攻法で下から音域を広げるには時間的に間に合わないだろう事と、もう一つの理由とにより、とりあえず高音を出せるようになってからいろいろ考えることにした。
 そのもう一つの理由は、口笛で音域を広げた時の体験で、「音域を広げる=今吹ける方法のバランスを崩す事」だと感じていた事もある。とりあえず広い音域をどんな音でも良いから出す経験をしてからのほうが精神衛生上良いかもしれないとも思った。それは、今出る音と比較して新しく出るようになった音はとてもしょぼいので、これで良いのか悩んだり、音域が広がったことによって今出る音が出にくくなった感じがしたり、最悪は全く音が出なくなる経験をしたからである。

 現在トランペットを吹ける人で、今出せる音程を生まれて初めて出した時のしょぼい音を覚えている人はいるのだろうか。どんな名プレーヤでもその音を初めて出した時があったはず。今は素晴らしい音で吹いておられるのは、しょぼい音を出し続けた結果なのだろう。

 自分は、吹けない状態からのリスタートなので、初めからしょぼい音で出したい音域まで経験してしまっても良いのではないかとも考えた。そして、しょぼい音で終わったとしても音が出るだけで十分と今でも思っている。
 この理屈を思い立ってから約1年後、高音域・超高音域の音の出し方がほぼ分かってきたが、中低音域は”もう少し頑張りましょう“状態。実験当初の目的から外れて、ハイトーン・チャレンジにはまってしまったのだから当然ではある。しかし、中低音域は若い頃吹いていた音域ではあるが、当時とは全く違うマウスピースの当て方、多分マウスピースを下唇に多く当てて、高音には右手も動員していたはずだが、コツを掴み、脳みそ含む全身の癖の上書きが出来れば!?、すぐにスムーズになると信じている。

 自分の拙い経験から言えることは、素人としてトランペットをそれなりに楽しめるようになるには、どんな吹き方でも良いのでその吹き方が癖になればOKだと思っている。その癖で自動制御され、思った通りに近い音程・音量がそれなりに出せる状態になれば合奏も出来る。あまり広くない音域がターゲットであれば、それなりの時間で演奏可能になるが、個人差は激しい。自分の場合は、1オクターブ半程度をそれなりの範囲に収めるだけでも相当な時間(年月)が必要だったので、下手の横好きの平均だろう。
 途中で発見した下唇の使い方を、万が一マスターしたら、4オクターブ以上コントロールできるというすごい事になる。しかし、マスターするにはあまりにも膨大な時間が必要だろうから、この年からでは締め切りも近いし、そうはならないだろうと思っている。

えっ、もうとっくに締め切り過ぎてるでしょって? ~おかまいなく♪

雑感2 癖は曲者だけど友達

 当面の最後のハードルと思われる、今回新しく吹けるようになった音域と昔吹いていた最高音付近であるハイベー付近がうまく繋がらない原因の一つは、昔の吹き方の癖がどうしても顔を出してくる事のようだ。昔は頑張ってハイベー付近まで何とか吹いていたので、特に左腕の癖は曲者である。でも、この癖のおかげで、それなりに音楽を楽しんでいたので感謝しないといけない。
 楽器を持つだけでも、曲を吹こうとするだけでも、譜面を見るだけでも、息を吸うだけでも、気づかないうちに癖が出ていたことに気づいた。
 しかし、楽器を付けずにマウスピースだけだとスムーズに繋がることのほうが多くなってきているので、やはり、一番の原因は、左腕の動き方の癖によって、マウスピースと唇との位置調節動作が阻害されているのだと思っている。
 つまり、唇の合わせ目をマウスピース下端に移動しようとすれば、相対的にマウスピース自体も当然動いている。丈の短いマウスピースだけで音を出している時には、指でつまんでいるだけなのでマウスピースはかなり自由に動いているが、マウスピースの数倍の長さの楽器だとそのマウスピースの動きが拡大され、大げさな動きになるが、その動きを左腕が阻害していて、正しい位置にマウスピースが移動できないのだろう。これが原因だと思うのだが、未だに左腕の昔の癖がどのように動かそうとしているのか良く分からないのでなかなか矯正し難い。時間を掛ければやがて新しい癖がつくだろうと期待だけはしている。

雑感3 終わりに

 今回の実験は、体力もない状態から始めた事、未経験の音域なので音が出るようになるのかどうかも分からなかった事、コロナ騒ぎも含め諸般の事情で、自宅で音を出すことにしたので、マウスピースだけで全音域を出す事になった。結果として、左腕の癖に気づき、楽器でも音が出るようになってきた。そういった意味では、偶然とはいえ良い流れだったなあと思っている。10年かけて付けた癖(その後数十年熟成)なので、10年かけて癖を上書きするつもりではあるが、10年後は…、まあ、深く考えないことにしよう。
 従って、このボーゲンらっぱ吹きとしては、まずは楽譜に書いてあるどの音もそれなりの音程で出す事が出来て、音楽にならずとも休み休みでも良いので、譜面の最後の音符まで吹くことが出来れば、それだけで十分楽しめる。途中に出にくい音があっても、昔は高音域が全てスカだったことを考えれば、あまりにもぜいたくな悩みであり、ボーゲンで十分満足しないといけない年頃ではある。
 そして、再開後5年~10年後に素人音楽の範疇に指先だけでも引っかかれば御の字であるが、体が言うことを利くうちに少しでも体験できることを期待だけはしていたい。

 最後に、この実験は自分にとって極端な良否両面が残った。トリプルハイベーと言う自分の歴史には無かった音域まで到達できたことやダブルハイベー(付近!?)を普通に当てられるのはとても良かった点であり、初級者手前程度ではあるが、裏付けのある方法、理屈の手順に従った方法で超高音域を体験できただけで十分宝物をもらったと思っている。また、高音は無限なのだということも理屈と体験を通じて腑に落ちたこと、上下唇の役割分担や、唇は2次元的な動きを続けていくと3次元(立体)的に動くようになると体験した事も大きな収穫であった。なんでもやってみるものである。
 まあ、下手糞ながらも録音しておけばよかったと思うし、欲を言えば通しで曲を吹けたら最高だったろうなあ、とは思う。
 否な点は、肺が言うことを利かなくなったこと。この齢での長期休養は回復不能と隣り合わせである。考えても仕方のない事だが、もし、ダブルハイベー付近で限界がきていたら、故障することなくピッコロを吹けていたのだろうか。それともやはりハイトーン・チャレンジの罠にはまったのだろうか。

 今は、肺がそれなりの圧力に耐えられるように回復する事を祈りつつ、その日を待つしかない。もし、故障が治ることがあれば再チャレンジするが、少なくとも超高音域はあきらめたほうが良いのかもしれない。

以上

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