トランペット高音域への科学的アプローチ実験

実験開始方法について

実験のテーマ

テーマ:すーっと息を入れて高い音が出てしまう方法を探し、そこを起点としてマウスピースと唇の位置関係をずらすことで唇の合わせ目をマウスピース下端方向に移動させ、さらに高音がすーっと出る位置を探す。初めはグリッサンドのように上げていくが、出来るようになったらその音を狙ってすーっと息を入れて音を出す。
 過去の経験から、高音域を力を入れて吹けても、頑張ってやっと出る音より高い音は出なかったことから、どの高さの音でも楽に出る口とマウスピースとの関係、角度、舌の位置、息の量やスピードを探す。

 ところで、スキーでは、初心者がパラレルターンの練習をいきなり始める事はあまり無く、プルークボーゲンからパラレルターンへと、「ステップアップ」していく方法をとることが多い。そこで、高音を吹けるようになるための安全なアプローチ方法として、また仮説を実現する方法として、そんな方法は無いかと考えたときに思いついたのが、ずらしながら下端に寄せるこの方法(テーマ)である。

 大昔にかじったスキーでは、まずプルークボーゲンというスキー板をハの字に開きゆっくり滑れる状態で、ゆっくりとした動作で、かつ過剰な動作で、板の動かし方を学習する。どのように操作すれば板が自然に曲がっていくのかを覚えるため、板を力任せでずらす方法から始まる。安全のためにスピードが出ないようにしながらなので、不必要な力も使うが、ゆっくりと過剰に大きな動作で操作方法を覚える事が出来る。やがて、母指球に体重がうまく乗ると自然に板が曲がるという”ツボ“を体験する事で分かるようになり、シュテムターンそしてパラレルターンと技術を習得してゆく。パラレルターンでは、スキーを平行にしたままツボを押さえた的確な動作を短時間で終えるので、無駄な力を必要とせず、楽に長く滑れる。上級者とも成ればどんな斜面でもパラレルウェーデルン等で乗り切れるが、自分の様な中級者程度だと、厳しい斜面ではパラレルはできず、安全にボーゲンなどを利用する。しかし、スキーを始めた人が全員競技スキーまで進もうとするはずもなく、ゲレンデをボーゲンで滑れれば満足する人も多い。むしろ、ゲレンデをボーゲンでかっ飛んでいて危なっかしい人が多かった。

 トランペットの高音域もそれと同様に、また、仮説を実現する方法として、まずはゆっくりと大きな動作で操作を覚える方法、まるでボーゲンのようではあるが、ずらしながら高音を出す方法になった。もちろん、ボーゲンのままではスムーズに音程を変更することは難しいかもしれないが、それでも出ないよりは楽しいだろうと考えたことと、もしも高音が出るようになり、慣れてくればそれなりにスムーズになる事を期待した。
 上手なラッパ吹きはある意味パラレルでの競技スキーを実現しているが、今更自分がそうなるはずもなく、ボーゲンのように高音だけ吹ければそれでも満足である。何しろ若い頃ですら頑張っても吹けない音域だったのだから。
 そして、このボーゲンのような方法は、万が一パラレルが存在し、そこまで進めた時のスランプ、高音が出にくくなった時の動作確認方法としても有効だろうとも考えた。

マウスピースだけで実験開始

 実験の中心は唇と舌との動作方法を見つける作業なので、まずはマウスピースだけで音を出すことにした。これは、手の小さな動きで口とマウスピースとの微調整が可能であり、マウスピースもかなり自由に動くので、探索作業には丁度良い。そして、最後の最後に、楽器を保持する左腕の癖(=マウスピースと口との微調整)を上書きする事とした。
 この手順にしたのは、マウスピースだけである程度音が出るようになった時に、楽器を持ったら唇が振動しなくなったことがあり、よく観察してみたらマウスピースの当たり方が違っていた。楽器を保持し微調整している左腕の癖を上書きするには、マウスピースだけで自信を付けたほうが早いだろうと感じたから。また、唇の振動により楽器が共鳴するという順序なので、マウスピースだけで音が出れば、同じ当て方が出来れば楽器でも音は出るはずである。
 マウスピースだけで音を出す事の他のメリットは、音量があまりないので、聞くに堪えない下手糞な音を出しながら、音量を気にせず音の出る方法を探すことに集中できること。それに、初めのうちはとても疲れ、音を出せる時間がそれこそ10分とかなので、自宅で手軽に出来ることが便利である。 ただ、マウスピースの先から水が垂れてくるので、息が通るようにハンカチを巻いて対処。

 大雑把に、1秒間に唇が前後運動する数(振動数Hz)は、ハイベー950回(Hz) ダブルハイベー1,900回 トリプルハイベー3,800回。この回数だけ唇が前後運動するように唇を抑えるにはそれなりの筋肉が必要だろう。したがって、出来るだけ小さな音量で実験をスタートした。小さな音で吹けるようになれば、自然にその筋肉を鍛えることになり、やがてそれなりの音量に耐えられる筋肉に育つはずだと信じたい。

 実験では、楽に高い音が出る口を見つけ高音域が吹けるようになってから、中音域以下へと下がる方法を探したのだが、こびりついた「吹き方の癖」との闘いになった。過去にトランペットはそれなりに練習し、ハイベーくらいまでなら何とか頑張って吹いていたので、その癖は全身に残っていて、しかもそのまま何十年も熟成させてしまった。そして「その吹き方の癖」の延長上にダブルハイベーが無い事も分かっている。
 ハイベーより上の音域は、新しく身に付ければよい音域なので、逆に言えばラッキーともいえる。しかし、ハイベーから下がっていくには新しい癖を上書きしていく必要があるが、簡単に言えば、昔の癖が出ると高音域は吹けなくなるということ。自分の拙い経験から、どんな吹き方でも、1オクターブちょっとはコントロールできるようになるから、ハイベー付近が新しい癖で上書きできればコントロールできるようになるだろうと安易に考えた。しかし、癖は曲者だった。

高音が出るにしたがって進化した唇の動きと音域を拡大する下唇の使い方の発見

 高い音はマウスピースの下端に移動すればよいという仮説の音の出し方を実現するために、マウスピースに対して上唇をずらしながら下端に移動することを続けているうち、ずれが小さく感じられるようになり、感覚的にはずらさなくても下端に移動するように「変形」しだしたように感じた。3次元の柔らかい唇は、単純なずらし以外にも、ぐにゃっと変形するような移動が出来るようだ。唇が2次元平面であれば、下端に移動させる方法はずらす事しかない。予想外の出来事で、基本動作と考えていた「力任せでずらす動作」からの変化であった。
 2次元平面のようなずらす方法(ボーゲン)は、元の位置に戻すのが厄介だと分かっていたが、この予想外の「変形」が、ボーゲンからパラレルへの道標に感じられた。
 この予想外の変形の様な感覚を得たのは、ハイベーからダブルハイベーまでそれなりに上下できるようになり、ダブルハイF程度までは上がれるようになった頃で、「あれっ」と気づいた。上下できるようになった時点で気づいても良さそうなものだが、なぜかその頃になってやっと気づいた。この頃は、マウスピースだけで音を出す事が主で、プラクティスミュート付きベー管でも出来る事が徐々に増えてきた頃だった。
 この変形の実態については未だに良く分からないのだが、もう少し余裕が出てくれば観察できるようになるだろう。

 高音域がそれなりに上下出来るようになってから、どうしたら中低音域に下げられるのかを考え始めたのだが、なかなかうまく下げられなかった。
 中低音を吹くには、仮説に従い上唇も下唇も緊張を解きながら下唇を厚くかける必要がある。ある日、思った以上に下唇をベロンチョと、いかりや長介(表現が昭和で、どーもすいません)のようにするとうまくいくときがあった。しかし、下唇を厚くするため意識的に下唇を動かすと急にハイベーからベーまで1オクターブ位下がってしまう。ベーからハイベーに上げるのも同様で、昔はあんなに苦労した1オクターブの跳躍はとても簡単だったんだと感動したが、途中が出ずコントロール不能ではあった。
 この方法は、音程を上下する方法としては間違っていないが、どうすればコントロールできるのだろうか、つまり、下唇をうまく使えれば広い音域を確保できるかもしれないと考えた。
 唇を微妙に緩めるのは難しい。緩めるというのはあまり正しくなく、正確には緩む方向の筋肉に力を入れる事だと考えている。その方向が分かれば出来るのかもしれない。
 とりあえず、力わざでも良いからと実験をしてみたときの偶然の発見で、狙った音程に下げることができた。その発見に至った実験と下唇の動きや位置の仮説は次の通り。

下唇の動き方の発見に至った実験と下唇の動きや位置の仮説

 高音に向かう時は上唇をマウスピースの下端近くに寄せる事だけ考えていれば、下唇は上唇に押されるようにして自然に下がっているようだ。しかし、低音に向かう時には上唇が緩んでも下唇が戻らないようなので、戻す方法を考えてみた。

  • (実験)高音域から中低音域に音程を下げていくときに、下唇は高音域のまま力を入れっぱなしにして、楽器を持つ左腕を使ってマウスピースで下唇を押下げるような方向に無理やり力を入れてみた。すると、少し緩めた上唇に従って、カップ内の下唇が変形し唇の合わせ目がマウスピース下端から上に移動したのだろう、半音、1~2音と狙った音程に下げる事が出来た。
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  • (仮説)カップ内の下唇が、緩んでいく上唇に従うように変形する位置があり、その位置に下唇をセットすれば良い。

 音域が広いと移動距離も大きくなるので、下唇も動員してずらすなり変形するなりしないと間に合わないのだろう。下唇の厚さ調整もずらすことから始めたが、二匹目のドジョウはいるだろうか。うまく変形する場所が見つかれば、と期待している。
 下唇を動かす方向が見つかったことで、高音域での上唇を移動させる負担が減った感じがする。上唇を下げることでマウスピース下端に移動させなくても、下唇でマウスピースを持ち上げることも可能になると考えられる。せっかく上下2つの唇があるので、両方の筋力を利用した方が、唇も楽になるだろう。
 デメリットは、コントロールすべき唇が2つになったので、コントロールの組み合わせが増え、トラブった時の原因究明がややこしい事と思われる。音域が広がる=コントロールが難しくなる、のは当然の事ではある。
 また、元気なうちは自然に変形のようにずれているようであまりずらす感覚がないが、疲れてきたときには、意識的にずらさないといけない。なので、ずらすのが基本動作ではあるが、筋肉が育ち動くようになってくると、ずらさなくても変形移動で吹き続けられるのかもしれないと期待はしている。

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